私のチェスター男子偏愛

 私はチェスターコートを着ている男性(以下チェスター男子)が好きです。

 きっかけは、「私のミスド偏愛」でも言及していた“憧れの先輩”でした。私を彼に一目惚れさせたある一枚の写真で彼は黒いチェスターを身にまとっていたのです。その似合いっぷりといったらありません。胃が痛くなるほどかっこいいです。

 今年も先輩があの格好をしているところを見たい。早く寒くならないかしら。もう街なかではチェスターを着て歩いている人がいるのに。そんな気持ちで過ごしていたら、あることに気がつきました。チェスターを着ている男の人が、わりと皆かっこいいのです。先輩ほどではありませんが、皆いい雰囲気。私が無意識に目線を動かす時、高確率でそこにチェスター男子がいます。これはチェスターに何かある、と確信しました。以下、「なぜ私はチェスター男子にときめくのか」を分析した結果です。

 

 まず、チェスター男子にはきちんと感があります。ここ一番のデートではちゃんとお洒落なレストランに連れて行ってくれそうな雰囲気です。襟があること、シルエットがシンプルなこと、丈が長めであることがフォーマルな印象を与えているのでしょう。特にこの丈は重要です。モーニングやタキシードから紋付羽織袴に至るまで、お尻が丸出しの正装はめったにありません。よほどスタイルがいい方以外は、お尻の形が分かるとだらしのない印象になってしまいます。隠すべきところを隠し、足の細い部分だけが見える丈感と胸元のV字ラインとで着る人をスマートに演出するチェスターは、まさに洗練された雰囲気を醸し出すのに相応しい装いと言えます。

 

 次に、チェスター男子はどこか色っぽいです。この色気にも丈感が深く関わっています。膝裏の皺ができる部分から上5cmは男女問わず大変エロティックで、このコートの裾からは丁度そこが見え隠れするのです。見えそうで見えない、焦れた気持ちを煽る揺れる裾。男性の上着の丈は、女性のスカート丈と同じ役割を担っていると私は思います。

 「隙間」の多さも着る人の艶やかさを増しています。襟元、袖口、太もも周り。生地と体の間に生まれた空間は、“妄想の隙間”です。隠された部分の形を想像させ、上着の中の温度を感じたいと思わせます。そして、人の妄想を許す余裕が色香となり周りを惹きつけるのでしょう。

 

 極め付けに、チェスター男子は頼もしいです。彼らの顔は自信に溢れているように見えます。なぜでしょうか。これには恐らく姿勢が関係しています。生地が分厚くて体を曲げにくいからか、私は猫背のチェスター男子を見たことがありません。スマホ片手に肩が丸まった方が多い中で、目線高く、顎が引かれ、凛としたその姿はひと際輝きます。隣に並ぶならこういう人がいい、という佇まいです。

 本来胴から足先に向けて細くなるはずの体のラインが、コートによって広げられていることも頼もしさの要因と考えられます。極端なことを言えば、咳一つで倒れてしまいそうなガリガリの人より一年断食をしても平気そうなデブデブの方が威厳たっぷりに見えます。チェスター男子たちはコートでシルエットを補正し、存在感を高めていたのです。

 

 上記のとおり、チェスターコートは疑いよう無く「モテコート」です。最近本格的に寒くなってきて、新しいコートの購入を考えている男性には是非チェスターを推したいと思います。意中の方のハートを射止めること請け合いです。

 

 さて、今回最後に紹介する短歌はこちら。

 

 

   たとへば君ガサッと落葉すくふやうに私をさらつて行つてはくれぬか

                            河野裕子

 

 11月も折り返し地点。私をさらってくれるきらきらチェスター男子はクリスマスまでに現れるでしょうか。

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